新型コロナニュース 2020-05-10 11:58:09
【医師監修記事】新型コロナウイルス感染症は抗体さえあれば大丈夫?
前回(新型コロナウイルスの抗体検査は”使える”のか?)は、抗体が体内に侵入した敵を倒す武器であることをお話させて頂きました。
では、抗体さえできればもう二度と新型コロナウィルスにかからないのでしょうか?
退院後に再度陽性になる例も各地で報告されているようですが、再びかかってしまったということでしょうか?
結論から申し上げますと、「分からない」としか言えないのです。
今回は、今分かっていることから、私個人の考えを述べさせて頂きたいと思います。
一口に抗体と言っても、その働き方にはいくつかあります。その一つが、「中和」と言って、ウィルスを無力化する働きです。そして、新型コロナウィルスに対する中和作用を持つ抗体が実験室レベルで確認されています1)2)。
また、まだ研究段階ではありますが、新型コロナウィルスの感染から回復した方の血液成分(血漿)を、新型コロナウィルス感染を今まさに起こしている別の患者さんに注射する治療が有効である可能性が示されています3)。これは、すでに完成した抗体が体内に入ることで、感染を抑えられるためと考えられています。
以上のことから、抗体を持っていれば体内に入ったウィルスを無力化できる、つまり感染を起こさないということは十分あり得ます。
ただし、そう単純にはいかないのが難しいところです。
まず、新型コロナウィルスに対する抗体は一つではなく、いくつか種類があります。どういうことかと言うと、ちょっと想像しにくいかも知れませんが、ウィルスはいくつかの部品(核酸やタンパク質)から出来ています。抗体は、この部品ごとに作られるのです。そして、これらの抗体のうち、どれが有効かというのも分かっていません。
また、有効な抗体がせっかくあっても、量が不十分だと感染は防げません。
例えば、同じくウィルスである麻疹や風疹、B型肝炎などは、抗体があっても数値が低いと感染を起こしうるため、ワクチンを再接種することがあります。
それでも、人の記憶のように、時間が経つと抗体の量が減ってしまうこともあります。
さらに、有効な抗体が十分にあったとしても、新型コロナウィルスは、当初から比べると変異を起こしている、つまりマイナーチェンジをしている可能性もあるようです4)。そうなると、変異を起こしたウィルスにも抗体がちゃんと作用するのかは、これもまた不明なところです。
<まとめ>
有効な抗体が十分にあれば新型コロナウィルスにはかからない可能性は高いと思いますが、まだまだ分からないことが多いのが現状です。歯切れが悪く申し訳ありませんが、真実が分からない以上、抗体があれば安心、とはいかないと思います。答えが明らかになるにはもう少し時間がかかりそうです。
1) Nat Commun. 2020 May 4;11(1):2251.
2) Lancet Infect Dis. 2020 May;20(5):565-574.
3) JAMA. 2020;323(16):1582-1589.
4) https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.04.29.069054v1